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この記事は「闘病垢の話」シリーズの5本目です。前回: 「わかる」が通貨になる場所
ある日、タイムラインを眺めていて、ふと気づく。あれ、あの人、最近見ないな。
名前を思い出そうとしても、すぐには出てこない。アイコンの色だけぼんやり覚えている。プロフィールを探そうにも検索ワードが浮かばない。いつからいなくなったのかもわからない。気づいたら、消えていた。闘病垢のTLでは、こういうことが割と普通に起きる。
消え方にもいろいろある
一番多いのは、しれっと消えるパターンだと思う。挨拶もなく、予告もなく、ある日アカウントがなくなっている。本人がどういう気持ちで消したのかはわからない。わからないまま、TLは普通に流れていく。
「しばらく離れます」と宣言してから消える人もいる。ただ、自分の印象では、宣言した人はけっこう戻ってくる。数日後にひっそり復活していたり、別のアカウントで見かけたり。宣言は「消える」というより「休む」に近いのかもしれない。逆に、何も言わずに消えた人は、本当にそのまま帰ってこないことが多い。
アカウントを変えて戻ってくる人もたまにいる。いわゆる「転生」と呼ばれるやつだ。アイコンも名前も変わっているけれど、文体や話題でなんとなくわかったりする。声をかけていいのか、少し迷う。
炎上がきっかけで消える人もいる。闘病垢は基本的に穏やかな場所だけれど、意見がぶつかることはある。追い詰められるようにして消えていった人を見ると、単純に可哀想だなと思う。
誰がいなくなったか、すぐにはわからない
正直なところ、誰が消えたか一瞬ではわからない。
毎日やりとりしていた相手なら気づく。でも闘病垢のつながりの多くは、もっとゆるい。TLで見かける程度の関係。相互フォローだけど会話はほぼない。いいねだけ交換している。そういう人が消えても、気づくまで何日もかかる。
ふとした瞬間に「そういえばあの人」と思って、プロフィールを開こうとする。アカウントが存在しない。あの感覚は、悲しいとも寂しいとも少し違う。「あ、いなくなったんだ」という、空白みたいなものが一瞬あって、そのまま画面を閉じる。
心理学には「曖昧な喪失(ambiguous loss)」という概念があるらしい。亡くなったわけではないけれど、もう会えない。生きているかどうかもわからない。別れがはっきりしないから、悲しんでいいのかどうかすらわからない。調べてみたら、闘病垢で人が消えたときのあの感覚にかなり近かった。ただ、そこまで重いものでもない。重くないからこそ、何度でも繰り返される。
前回、「わかる」が通貨の場所だと書いた。その通貨を交換していた相手が、いつの間にかいなくなっている。でも通貨のやりとりが止まっても、TLはそのまま動き続ける。止まらない。
卒業式がない場所
闘病垢には、そもそも「卒業式」がない。
回復して離れるとしても、祝われて卒業するのは難しい。「元気になりました」とTLに流すのは気を使う。まだ回復していない人が大半の場所で、自分だけ良くなった報告をすることへの後ろめたさのようなものがある。前回書いた「わかる」が通貨になる場所では、回復は「わかる」の共有からはずれることを意味する。
だから、しれっと消えるのが一番角が立たない。
消える理由はたぶん3つに分かれる。調子がよくなって、もうこの場所がいらなくなった人。逆に悪化して、スマホを触る余裕すらなくなった人。3つ目は、単純に人間関係に疲れてリセットしたい人。闘病垢に限った話ではないけれど、ここではわりと目につく。
問題は、外からはどれなのかわからないことだ。回復したのかもしれないし、入院しているのかもしれない。その「わからなさ」に自分が慣れてきていることに気づくと、少しだけ怖くなる。
ここはそういう場所
ここまで書いて、じゃあ自分はどうなのか。
たぶん消えない気がする。少なくとも今は。でも「消えない」と断言する自信はない。体調が崩れたとき、人間関係がしんどくなったとき、自分もしれっと消える側になるかもしれない。
今いる人たちも、たぶんそうだ。消えないつもりで今日ツイートしていて、来月にはいない。そういうことが当たり前に起きる場所にいる。
一定数の人が消えること自体は、別にいいのだと思う。ここは居場所であると同時に、通過点でもある。残る側も、消える側も、悪くない。ただ、消えた人が元気でいるのかどうかだけは、たまに気になる。確かめる手段はないけれど。
いなくなった人をふと思い出す感覚を、小説にした人がいる。燃え殻の『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、かつてつながっていた人たちの記憶を辿る話で、Netflixで映画化もされた。闘病垢で消えた人のことを思い出す夜に、少し重なる。
燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』
¥572(税込)
もういない人のことをふと思い出す夜に。かつてつながっていた人たちとの記憶を辿る小説。Netflix映画化作品。
次回は、この界隈に最近増えている現象——闘病垢でAIを使っている人の話を書く。
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※この記事は個人の体験と観察に基づいています。症状や治療については主治医にご相談ください。

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