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この記事は「闘病垢の話」シリーズの6本目です。前回:
深夜3時、「眠れなくてチャッピーに話しかけてた」というツイートがTLに流れてきた。
チャッピーはChatGPTのことらしい。その人はスクショを貼っていて、AIに「今日しんどかったこと」を聞いてもらっていた。返事はいかにもAIっぽい丁寧な口調だったけど、本人は「聞いてくれてありがとう」と書いていた。
それを見た瞬間の感覚が、まだ残っている。
「チャッピーに聞いてみた」が増えてる
ここ半年くらいで、似たような投稿がTLに増えた。
メールの文面を考えてもらう。ちょっと喧嘩した友達へのLINEの返し方を相談する。眠れない夜にとりあえず話を聞いてもらう。思っていたよりいろんな場面で使われている。AIは24時間応答してくれるし、どれだけ愚痴を聞いても疲れない。深夜3時でも付き合ってくれる。
課金している人も多い。月3,000円のサブスクを、話を聞いてもらうために払っている。TLでは「カウンセリング1回分より安い」という計算をしている人もいた。
聞いてほしいだけなのかもしれない
しばらく見ていて気づいたのは、目的のなさだった。
仕事でAIを使うときは「課題を立てる→質問する→回答をもらう」で済む。目的が先にあって、AIはそれを処理するもの。でもTLで見かける使い方はそうじゃない。「なんとなくしんどい」に対して「そうだね、つらいよね」と言ってもらう。 解決策が欲しいわけでもない。ただ聞いてもらいたい。
以前書いた「わかる」が通貨になる場所のことを思い出した。スペースで「わかる」を交換していた人たちの一部が、いまはAIから「わかる」をもらっている。通貨の発行元が変わっただけで、求めているものは同じだ。 違うのは、AIは相手に気を使わなくていいこと。スペースだと聞いてくれる人も当事者だから、負担をかけている感覚がどうしても残る。AIにはそれがない。
ある人は、主治医に何を話すか整理するためにAIを使っていた。診察の時間は限られるから、要点をまとめたいのはわかる。でもその投稿をよく読むと、求めているのは「効率的な整理」じゃなくて、「今日の自分の状態を誰かに聞いてもらうこと」のほうが大きそうだった。
返事は毎回、必ず返ってくる
便利なのはわかる。ただ、怖いと思うこともある。
「AIにこう言われた」が、そのまま判断の根拠になっている。 薬の飲み合わせ、制度の手続き、対人関係の対処法。AIの回答を、かなり素直に信じている投稿を見かける。会話形式だから、人に教えてもらった感覚になるんだと思う。検索結果より信頼感がある。
もっともらしい嘘をつくこともあるし、古い情報を平気で混ぜてくることもある。でもそういう前提がない人にとっては、返事が毎回ちゃんと返ってくること自体が、安心材料になっている。
TLを見ていると、やめられないと自覚しながら使い続けている人がいる。Awarefyが2025年8月に実施した調査でも、AIに「心の支え」を求めている人の約6割が自分の依存を自覚しているという結果が出ていた。わかっていてもやめられない。その構造自体が、少し怖い。
精神科医の益田裕介が、AIをメンタルケアに使う時に何に気をつけるべきかを整理した本を出している。「AIに相談するのは悪いことなのか」という問いに対して、専門家の立場から答えている一冊。
益田裕介『精神科医が教える AIメンタルケア入門』
¥1,980(税込)
YouTubeで人気の精神科医が、AIとメンタルケアの付き合い方を整理した本。依存の防ぎ方も書かれていて、この記事の話と直接つながる。
自分の距離感
自分もAIは使う。ただ、やっぱり道具としてだ。調べものをする、文章の構成を考える、仕事のタスクを処理する。感情を預ける相手にはしていない。
闘病垢の人たちの使い方を否定するつもりはない。深夜にしんどくて、誰にも連絡できなくて、でも何かに話を聞いてほしい。そのときにAIがいてくれるのは、悪いことではないと思う。
ただ、AIは「わかる」を無限に生成してくれる。返事は毎回、必ず返ってくる。それが安心なのか怖いのか、自分にもまだ判断がつかない。
答えが出ないまま夜を過ごす感覚を、詩にしている人がいる。最果タヒの詩集は、都市の夜の孤独を短い言葉で切り取っていて、深夜にスマホを閉じた後にちょうどいい。
最果タヒ『夜空はいつでも最高密度の青色だ』
¥1,320(税込)
都市の夜と孤独を鮮烈に描いた詩集。映画化もされた。1篇が短いから、眠れない夜にページをめくるのにちょうどいい。
通貨の発行元が変わっただけで、求めているものは同じ。それが良いことなのかどうかは、まだわからない。
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※この記事は個人の体験と観察に基づいています。症状や治療については主治医にご相談ください。

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